氷都の地域性を活かしながら多目的性を高めた『FLAT HACHINOHE』

スタジアム・アリーナ改革の選定拠点紹介 氷都の地域性を活かしながら多目的性を高めた『FLAT HACHINOHE』

スポーツ庁および経済産業省では、まちづくりや地域活性化の核となるスタジアム・アリーナの実現を目指す「スタジアム・アリーナ改革」に取り組んでおり、2025年までに20拠点を実現することとしています。このモデルとなる「多様な世代が集う交流拠点としてのスタジアム・アリーナ」として選定された中から、いくつかの拠点をピックアップしてご紹介。今回は青森県八戸市にある「FLAT HACHINOHE」です。

参考:スポーツの成長産業化に向けて、スタジアム・アリーナ改革の選定拠点を表彰
https://sports.go.jp/tag/life/post-73.html

通年型アイスリンクをベースとした多目的アリーナ

「FLAT HACHINOHE」は、氷都・八戸のシンボルであるアイスホッケー、アイススケートを中⼼とした通年型アイスリンクをベースとした民間による多目的アリーナです。「FLAT ARENA(フラットアリーナ)」「FLAT SPACE(フラットスペース)」「FLAT X(フラットクロス)」「FLAT PARK(フラットパーク)」の4つのエリアで構成され、2020年4月、JR八戸駅西口に開業されました。

国内唯一、アイスリンクから床フロアへの転換が可能

「FLAT ARENA」の大きな特長は常設アイスリンクを床フロアに転換できる「フロアチェンジ機能」です。国内初の機能で、アイスリンクへ断熱フロアを敷設することでバスケットボール、コンサートなど多様なイベント利用が可能となります。転換にかかる時間も短く、一晩あれば転換が可能。アイスホッケーの試合が行われた翌日にはバスケットボールの試合が行えるのです。アリーナのほかにも屋外スペース「FLAT SPACE」、アリーナと広場を結ぶ「FLAT X」も多目的での利用ができるような設計となっています。

フロアチェンジの様子:イメージ1 フロアチェンジの様子:イメージ2フロアチェンジの様子

見やすさと臨場感にこだわったアリーナ設計

「FLAT HACHINOHE」の立ち上げには設計段階から施設運営の意見が取り入れられました。施設運営のクロススポーツマーケティング株式会社の青山英治さんは「私たちはスポーツの現場を知っているからこそ設計から提案させていただきました」と語ります。設計には北米のプロアイスホッケーやアイススケートの会場などを参考としながらも、日本の地域ならではのスポーツの場に適したものとなるように工夫されたそうです。

青山英治さん:イメージクロススポーツマーケティング株式会社 青山英治さん

リンクに近い観客席からはこれまでにないような臨場感が伝わってくる:イメージリンクに近い観客席からはこれまでにないような臨場感が伝わってくる

設計段階から多角的な運営ができる工夫を盛り込む

観客席はアイスリンクから可能な限り近い場所に配置したり、できる限り客席の傾斜も高くしたりと、見やすさの工夫と試合の臨場感が増すことを大事にされています。固定席のほかに広いコンコースを設け、販売ブースなどを設置できたり、集客人数が多い時はコンコース上に臨時の客席を増設できたりと目的や状況に応じてフレキシブルな対応が可能になっています。

FLAT ARENAの全景:イメージFLAT ARENAの全景

設備面では、天井から吊り下げられた大型ビジョンや場内を一周するリボンビジョンなどの映像機器をはじめ、どの席からでも迫力のある音が聴こえる音響機器などの最新設備を導入。アリーナ面にプロジェクションマッピングを投影することもできます。しかもこれらはタブレット端末でワイヤレス操作できるようになっており、専門オペレーターでなくとも映像音響機器を使ったクオリティの高いエンターテインメント演出が行えるのも特長のひとつです。

照明についてもアリーナの設計段階から照明メーカーに相談して専門のLED電灯から設計するこだわりぶり。各シーンに適した照明環境に調整することができ、観客席を暗くしてアイスリンクを浮き上がらせる劇場のような照明により、試合や舞台に集中して鑑賞できる空間として演出できます。
「2020年11月に行われたフィギュアスケート全日本ジュニア選手権大会では観客の映り込みが少なく、選手たちの演技だけに集中して観ることができたとファンの方からの声をいただいています」と青山さんは言います。

天井から吊るされた大型ビジョン、会場を一周するリボンビジョンなどの演出操作は手元のタブレットで操作できる:イメージ天井から吊るされた大型ビジョン、会場を一周するリボンビジョンなどの演出操作は手元のタブレットで操作できる

新たな官民連携スキームで注目される

「FLAT HACHINOHE」は民間企業「XSM FLAT八戸」が建物を保有し、その運営・営業を先述のクロススポーツマーケティング株式会社が担う民設民営。八戸市が必要分のみを借り受ける新たなカタチの官民連携スキームとして注目されています。市は市有地を無償で貸し出しているほか、年間2500時間分の利用枠を30年間にわたって固定的に借り受けており、市内の学校の体育授業、地元アイスホッケークラブの練習や大会、国体をはじめアマチュア競技大会やフィギュア選手権大会など行政によるイベント等を行っています。

行政利用以外の部分については、クロススポーツマーケティング株式会社の民間努力によりアイスホッケーやフィギュアスケートといった氷上競技、Bリーグチーム「青森ワッツ」のホーム試合やイベント、バスケットボール3人制リーグ「3x3.EXE PREMIER(エグゼ・プレミア)」など、プロスポーツの会場として、また音楽コンサート、自動車のスタットレスタイヤ試乗会などにもアリーナが使われています。エントランスホールや屋外スペースでは、地元の朝市やマルシェ、企業展示会といったイベントが開催されています。

地元のコミュニティスペースとして活用

「イベントのない日はアイススケートリンクとして、一般の方々にも利用していただいています。定期的にキッズ無料DAYやラジオ体操の会場となるなど、地元のコミュニティスペースとしても活用されています。アリーナ、エントランス、屋外スペースのそれぞれで複合的にイベントを開催することで相乗効果も創出しています」と青山さんは話します。

キッズ無料DAY、ラジオ体操、朝市など市民が気軽に利用できるイベントも定期的に開催:イメージ1 キッズ無料DAY、ラジオ体操、朝市など市民が気軽に利用できるイベントも定期的に開催:イメージ2キッズ無料DAY、ラジオ体操、朝市など市民が気軽に利用できるイベントも定期的に開催

スポーツ合宿やスポーツツーリズムの拠点として

今後の展開について、青山さんにお聞きしたところ、「オープン時期とコロナ禍がほぼ一緒でしたので実現できていないことが多くあります。推し進めていきたいのが『観光・ツーリズムとの連携』です。氷上スポーツが盛んな“八戸”という地域性を活かし、全国からアイスホッケーやフィギュアスケートの合宿地として利用していただきたいです。八戸市内にある宿泊施設さんと連携しながらFLAT HACHINOHEを拠点として八戸の魅力も感じていただきながら合宿を行ってほしいです。また気軽に旅行ができるような状況になれば、八戸を旅しながらアイススケートも楽しめるスポーツツーリズムのような企画も行いたいと考えています」と話されました。

まとめ

氷上スポーツの盛んな土地柄を活かし、なおかつ設計段階から「多目的利用」を意識してつくられたFLAT HACHINOHEは、イベント主催側にとって、とても魅力的な施設だと思います。イベントを通して地元住民との交流の“場”としても機能しており、今後、旅行などが気軽に行われる状況となれば、旅行者と地元民を繋ぐ“場”にもなりえるのではないでしょうか。

●本記事は以下の資料を参照しています

スポーツ庁ホームページ 令和2年度「多様な世代が集う交流拠点としてのスタジアム・アリーナ」選定の結果について (2022-02-01閲覧)
FLAT HACHINOHE(2022-02-01閲覧)

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