次代へ向けた「持続可能な国際競技力向上プラン」を発表

次代へ向けた「持続可能な国際競技力向上プラン」を発表

2021年夏に開催された東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会において、日本代表選手団は、オリンピックでは過去最多のメダル獲得や入賞数、パラリンピックではアテネ大会に次ぐ過去2番目に多いメダルを獲得。両大会を通じて幅広い世代の活躍や数々の記録更新など、多くの快挙を成し遂げる大活躍により、連日、多くの国民に勇気と感動を与えてくれました。こうした日本代表選手団の活躍は、選手の皆さんがこれまで積み重ねてきたトレーニングの成果を発揮された結果といえます。

これまでスポーツ庁では「競技力強化のための今後の支援方針(鈴木プラン)」を掲げ、アスリートたちがパフォーマンスを最大限発揮できるような環境整備を行ってきました。2021年4月に設置した「競技力強化のための施策に関する評価検討会」で、東京大会の結果等を踏まえながらこれまでの取り組みを検証し、有識者や関係団体からの意見も踏まえて、昨年12月に新たなプランを公表しました。今回はこの新プランについて解説します。

これまでの「鈴木プラン」とは?

「競技力強化のための今後の支援方針(鈴木プラン)」とは、リオデジャネイロ2016オリンピック・パラリンピック競技大会後の2016年10月にスポーツ庁が策定したもので、2020年東京大会で優れた成績を収めるよう支援するため、さらには、その取り組みを強力で持続可能なものとして構築・継承するための支援方針です。

主な内容は「中長期の強化戦略プランの実効化を支援するシステムの確立」「ハイパフォーマンスセンターの機能強化」「アスリート発掘への支援強化」「女性アスリートへの支援強化」など、2020年大会に向け、各中央競技団体の強化戦略やトップアスリートの環境改善を積極的に支援してきました。

参考:未来を見据えた競技力強化のための支援方針「鈴木プラン」とは?
https://sports.go.jp/special/policy/suzuki-plan.html

新たな「持続可能な国際競技力向上プラン」とは

2021年12月、スポーツ庁では東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会等の結果も踏まえつつ、これまでの競技力向上施策の成果と課題を検証し、新たに「持続可能な国際競技力向上プラン」を策定しました。

本プランでは東京大会での好成績を一過性のものとせず、かつ、少子化が進むわが国において持続的に国際競技力の維持・向上を図っていくことを基本としています。「優れた能力のアスリートを数多く見出し、育成・強化する仕組みを構築」「デジタル技術とスポーツ医・科学的な知見を活用した質の高いトレーニング環境の整備」を中心に、すべてのアスリートが可能性を発揮することができる環境の実現を目指しています。

この基本的な考え方に基づき、以下の3つの進めるべき施策の方向性を示しています。

(1)アスリート発掘・育成・強化の取り組みのシステム化・プログラム化
(2)居住地域等にかかわらず、全国でスポーツ医・科学、情報等によるサポートを受けられる環境の実現
(3)地域における競技力向上を支える体制の構築など、国と地方の競技力向上施策の連携強化

持続可能な国際競技力向上にむけた施策とは

今後の具体的な施策や取り組みについて紹介します。

室伏スポーツ庁長官:イメージ1

中央競技団体(NF)による選手強化活動の基盤の確立・強化

(1)戦略的な選手強化の実施に向けた支援
国際競技力向上のためには中央競技団体(以下、NF)が中長期の強化戦略プランを策定し選手強化活動に総合的・計画的に取り組むことが不可欠です。これまでのNFの強化戦略プランの実行化に向けた多面的な支援を継続的に進めていきます。またメダル獲得可能性が高い「重点支援競技」を選定し、専門的かつ高度なアスリート支援なども引き続き行います。
(2)コーチ等の育成・配置充実
これまで国の競技力向上事業の拡充により指導者等の充実が図られたことが、東京大会における日本代表選手団の好成績にも貢献しており、今後もNFの選手強化活動に必要な人材を確保・配置することは重要です。NF全体の強化責任者をはじめ、競技力向上に欠かせない監督、コーチ、スタッフ等の役割を明確化し、海外からの招聘を含む優秀な人材の配置を支援します。
(3)競技団体の組織基盤の強化
アスリートの発掘・育成・強化、競技普及など多くの役割を担うNFは、国際競技力の向上、さらにはスポーツの振興を図る基盤であり、自立してその役割を十分果たせるようにすることが重要です。NFが自己収入の確保に努め、自立的な組織運営による持続的な成長・拡大に向けた改革を促進するため、組織基盤強化に向けた取り組みを支援していきます。

パスウェイに基づく地域と一体となったアスリートの育成

(1)強化戦略プランに基づくアスリート育成パスウェイの構築
持続可能な国際競技力向上のためには、中長期的な視点を持った戦略的なアスリート育成が求められます。次世代を担うアスリートの発掘・育成や、現役アスリートとしての活躍の先にあるキャリアを見据えた取り組みも重要です。スポーツに触れてからトップアスリートになるまでの育成過程を見える化した枠組み「日本版FTEM」等をもとに、各競技団体がアスリート育成の道筋(パスウェイ)について、それぞれの競技でモデルを構築できるよう支援していきます。これにより、アスリート、コーチ、競技団体、地方公共団体、その他関係団体等が同じ認識を持ちながら、戦略的にアスリートの発掘・育成・強化に取り組む仕組みを構築したいと考えています。

アスリート育成パスウェイを整理するための枠組み「日本版FTEM」:図アスリート育成パスウェイを整理するための枠組み「日本版FTEM」
(出典:独立行政法人日本スポーツ振興センターHP(日本版FTEMとは?))

(2)地域における競技力向上を支える体制の整備
地域と一体となってオールジャパンでアスリートの発掘・育成・強化に取り組みます。発掘・育成は各地域の取り組みによるところが大きく、居住地域や競技環境に左右されることなく、また、トップアスリートのみならず育成段階においても、各地域でスポーツ医・科学、情報等によるサポートを受けられる環境を整備するなど、競技団体、地方公共団体、都道府県体育スポーツ・障害者スポーツ協会、企業、地域のスポーツ医・科学センター、大学等が連携したアスリート育成のための仕組みづくりを行います。

地域と一体となったアスリート育成サイクルの確率(イメージ):図

アスリートへのスポーツ医・科学、情報等による支援の充実

(1)アスリートへのスポーツ医・科学、情報等による国際競技力向上のための研究・支援の推進
ハイパフォーマンススポーツセンター(以下、HPSC)の機能強化を図り、スポーツ医・科学、情報等によるサポートの充実等が行われたことも東京大会における日本代表選手団の活躍に重要な役割を果たしました。諸外国においてもデータ収集・分析等を含めたアスリート支援の高度化・専門化が加速する中で我が国が厳しい国際競争を勝ち抜いていくためには、科学的根拠に基づく選手強化活動の充実は不可欠です。このため、HPSCにおけるスポーツ医・科学、情報等の研究・支援について、デジタル技術等も積極的に活用しながら充実を図ります。また、NFにおいても科学的根拠に基づく選手強化活動の充実が図られるよう専門人材の配置等を含めて支援します。

※ハイパフォーマンススポーツセンターについて説明した過去記事もご参照ください。
https://sports.go.jp/tag/competition/2020hpsc.html#an01

HPSCにおける風洞実験棟での測定(写真提供:独立行政法人日本スポーツ振興センター):イメージHPSCにおける風洞実験棟での測定(写真提供:独立行政法人日本スポーツ振興センター)

(2)全てのアスリートが健康に競技を継続し、最大のパフォーマンスを発揮できる環境の整備
東京大会では女性アスリートによるメダル獲得も増え、めざましい活躍を見せてくれました。この活躍を持続的なものとし、さらなる躍進を実現するため、女性アスリートが健康に競技を継続するための環境整備が重要です。産前・産後のトレーニング等の競技復帰支援や女性コーチの育成について引き続き取り組むとともに、女性アスリートの健康課題への対応については、ジュニア段階を含め科学的根拠に基づく育成・強化などを支援していきます。
また、東京大会中は、SNSでの誹謗中傷が大きく報道されるなどアスリートのメンタルヘルスにも注目が集まりました。様々なプレッシャーの中で競技を行う上でのメンタルヘルスはもとより、アスリートの幸福度、ウェルビーイングは世界的にも関心が高まっています。こうした認識のもと、アスリート等に対する心理面でのサポートの拡充にも取り組みます。

パラ競技の国際競技力向上とオリ・パラ連携の促進

東京大会後もパラアスリートが継続的に国際舞台で活躍できる環境をつくり、障害の有無に関わらず誰もがスポーツを楽しめる社会の実現を目指します。幅広い年齢層や重度障害のパラアスリートの活躍を目指し、競技者の裾野を広げることも重要です。オリ・パラ一体の強化を前提にしつつも、さらなるパラ競技の国際競技力向上に向け、パラ競技の公平な実施に不可欠な「クラス分け」にかかわる調査研究や人材育成・配置を支援します。また競技用車いすや義肢装具をはじめとしたパラ競技用具等の研究やパラスポーツのトレーニング方法等に関する研究を推進します。オリ・パラ選手強化活動や競技の普及等において、これまで以上にオリ・パラの競技団体の連携が図られるよう支援していきます。

以上が「持続可能な国際競技力向上プラン」に掲げた取り組み内容となります。

HPSCにおける風洞実験棟での測定(写真提供:独立行政法人日本スポーツ振興センター):イメージ

まとめ

東京大会は、新型コロナウイルスの感染拡大によって1年の開催延期、異例の無観客開催など困難な状況での開催ながらも、日本代表選手団の素晴らしい活躍が日本中を沸かせました。この活躍を一過性のものとせず、今後行われる数々の国際競技大会においてアスリートが同様の活躍ができるよう支援することが必要です。今回の「持続可能な国際競技力向上プラン」に基づく取り組みを、国・地方公共団体、競技団体などの関係機関が連携して実施していくことで、トップアスリートのみならず、ジュニア世代など未来のアスリートが国際舞台で活躍できる基盤をつくっていきます。

●本記事は以下の資料を参照しています

スポーツ庁 - 持続可能な国際競技力向上プラン (2022-01-01閲覧)
スポーツ庁 - 競技力強化のための今後の支援方針(鈴木プラン)(2022-01-01閲覧)
スポーツ庁 - 競技力強化のための施策に関する評価検討会(2022-01-01閲覧)
スポーツ庁 - 競技力強化のための施策に関する評価検討会報告書(2022-01-01閲覧)

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