地域版SOIPデモデイ受賞紹介②〜誰もが観戦を楽しめる環境をサポートする「レノファ山口 × ケアプロ」

地域版SOIPデモデイ受賞紹介②〜誰もが観戦を楽しめる環境をサポートする「レノファ山口 × ケアプロ」

スポーツ庁ではスポーツを核とした地域活性化の実現に向け、地域におけるスポーツオープンイノベーションプラットフォーム、通称SOIP(ソイップ)の構築を目指す「地域版SOIP」を推進。地域に根差したスポーツチーム・団体と他産業界との連携による新規事業の創出を支援しています。昨年度は北海道、関西、中国、沖縄の4地域を拠点とするスポーツチーム・団体とともに、スポーツ産業の新たな未来をつくるパートナー企業を募集。計11社・12プロジェクト(以下、PJT)が採択され、アクセラレーションプログラム「INNOVATION LEAGUE SPORTS BUSINESS BUILD」を通して事業アイデアのブラッシュアップが進められました。

2022年2月には地域版SOIPの成果発表会(デモデイ)を開催。そのデモデイで実施されたピッチ(プレゼンテーション)にて、12PJTの中から審査員特別賞を受賞された山口県全19市町をホームタウンとするプロサッカークラブ「レノファ山口」と予防医療や看護に関する事業を展開する「ケアプロ株式会社」による取り組みについて紹介します。

誰もが集うスタジアムに

本プロジェクトは、レノファ山口とケアプロ株式会社が「誰もが集うスタジアムに」をキャッチフレーズに、障害者や高齢者など幅広い層に対してスタジアムへの来場を促すプロジェクトです。レノファ山口は、家族と一緒にスタジアムに来場する観戦者割合Jリーグ1位(67.1%)である一方、60歳以上の観戦者割合はJリーグ平均以下(13.4%)(※)とスタジアムへ足を運ぶことにハードルを感じているシニア層が少なくないようです。

※Jリーグ「スタジアム観戦者調査2019」サマリーレポート調べ(https://www.jleague.jp/docs/aboutj/funsurvey-2019.pdf

全国都道府県高齢化率ランキング3位に入る山口県では、65歳以上の人口が約46.6万人、全体の34.3%を占め、75歳以上の割合は全体の18.1%となっています。今後、山口県のみならず全国的に高齢化率が高まることから、レノファ山口では「多世代が集える場所」としてスタジアムの役割があるのではないかと、今回の地域版SOIPへの参加をきっかけにPJTを立ち上げました。

人それぞれに求めているサービスがある

レノファ山口がパートナーとして迎えたのは、ヘルスケアサービスを提供するケアプロ株式会社。障害者や高齢者の外出時のサポート、イベント会場の救護や交通弱者支援などを行う同社と共に、スタジアム内で障害者や高齢者へどのような支援・サポートができるのかを検討。スタジアム観戦における問題点を洗い出したところ、階段が多い、観客席が固くて座りづらい、雨の日は足元が滑りやすい、飲食やグッズ売り場まで遠いなど、看護事業でも見られるような共通するさまざまな課題があげられました。PJTでは、そうしたスタジアム内でサポートを必要としている人に寄り添うスタッフを配置して、観戦を楽しんでもらうことにしました。

実証実験は2月、3月に開催。2月の実証実験では高齢者を対象に募集し、階段昇降の補助、座椅子の貸し出し、フードやドリンクの代行買い出しなどのお手伝いを行いました。実際にサービスを利用された方からはサービス内容に満足したという声があがっています。

実証実験時の様子:イメージ実証実験時の様子

実証実験についてレノファ山口FCの取締役経営管理部長・柴田勇樹さんにお話を伺いました。

「当初は対象を『高齢者』ということで考えていましたが、実証実験を行うなかで、障害者や高齢者以外にもスタジアムにサポートを必要とする人がいることに気づきました。お子さん連れの家族であればベビーカーを使われたり、幼いお子さんから目を離せずにトイレに行くのも苦労されていたりします。また同様に妊婦さんも助けを求めたいことがたくさんあります。今回、実証実験によって、スタジアム観戦にハードルの高さを感じている方がいることに気づけたのは大事なことだと思います」。

3月の実証実験では、高齢者のみならず子連れ親子、妊婦など対象範囲を広げ、2月よりも多くの方が実験に参加しました。

共創のビジネスモデル図:イメージ共創のビジネスモデル図

想定とは異なる新しい事業アイデアが生まれた

共創相手のケアプロ株式会社にも今回の取り組みについてお聞きしました。

「2021年11月に行われたBUSINESS BUILDでは、レノファ山口様をはじめ、運営パートナーやメンターの皆様から、私たちにはない視点からのご意見をいただき、大変刺激を受けました。その中で、当初想定していたものとは全く異なる新しい事業アイデアが生まれ、わくわくしました。
約4カ月の限られた実証実験期間の中で、実際にスタジアムで2回のサービス提供をさせていただきました。地域版SOIPに関わる方々が当事者としてサポートいただけたおかげで、スピード感を持って『誰もが集うスタジアムに』をサポーターの皆様にお届けできました」。

「2022年3月に行った実証実験では、40名の募集枠に138名のご応募をいただきました。ご利用者様から『とても面白い試みだと思いました』『障がいのある娘にとても親切にしてくださった』といったご意見をいただき、手ごたえを感じています。半面、”どうすれば会場に来ていただけるか”という視点でリスクや手間を惜しまない必要を感じました。3月末で実証実験期間は終了となり取り組みは一段落となりましたが、現在もレノファ山口様とは定期的にディスカッションをしています。
レノファ山口様から始まった『誰もが集うスタジアムに』を、Jリーグ全体や他のスポーツイベントに広げ、誰もがスポーツを楽しめる世界を創っていくパートナー様を募集しています」。

地域の方々を巻き込んで定期的に続けたい

最後にレノファ山口の柴田さんに今後の展望と地域版SOIPの感想を聞きました。

「異業種との共創で、私たちとは違った発想を得られたのは大きかったですね。また地域版SOIPに参加された他チームの事例なども興味深いものがありました。今回は私たちとケアプロさんだけでしたが、今後はスポンサーなどもっと多くの地域の方々を巻き込みながら定期的に行っていけば、また展開が変わるかもしれませんね」。

まとめ

「レノファ山口 × ケアプロ」の事例は、山口県のみならず、高齢化が進む日本全体の問題でもあると思います。スタジアムにおけるハードウエアとしてのバリアフリーは進んでいますが、本事例のように、人が人を支えていく「心のバリアフリー」によって、もっとスポーツ観戦の楽しみが広がるのではないでしょうか。

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●本記事は以下の資料を参照しています

スポーツ庁 - 令和3年度スポーツ産業の成長促進事業「スポーツオープンイノベーション推進事業(地域版SOIPの先進事例形成)」の運営協力事業者の採択結果について(2022-05-01閲覧)

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