各競技の競技力強化拠点の機能強化を担うプロフェッショナル人材「機能強化ディレクター」の存在に迫る

各競技の競技力強化拠点の機能強化を担うプロフェッショナル人材「機能強化ディレクター」の存在に迫る

スポーツ庁では、わが国の国際競技力強化に向けて、ハイパフォーマンススポーツセンター(以下、HPSC)のみでトレーニングを行うことが困難な競技(冬季、海洋・水辺系、屋外系のオリンピック・パラリンピック競技など)について、地域の既存スポーツ施設を「ナショナルトレーニングセンター競技別強化拠点(以下、NTC競技別強化拠点)」として指定。中央競技団体(以下、NF)がより効果的なトレーニング・強化活動が実施できるよう環境整備の支援を実施しています。

また、いくつかのNTC競技別強化拠点に、専門知識をもつプロフェッショナルな人材「機能強化ディレクター」を配置し、NTC競技別強化拠点の機能強化を図るための新たなプロジェクトを2019年度から実施しています。今回は、このプロジェクトについて取材しました。

※ハイパフォーマンススポーツセンターについて説明した過去記事もご参照ください。
https://sports.go.jp/tag/competition/2020hpsc.html#an01

NTC競技別強化拠点とは

NTC競技別強化拠点は、HPSCのみでトレーニングを行うことが困難な競技について、地域の既存スポーツ施設を各NFの強化拠点として指定し、環境整備の支援等を行っています。「冬季競技」、「海洋・水辺系競技」、「屋外系競技」、「高地トレーニング」、「パラリンピック競技」の合計41施設(2021年4月現在)が指定されています。

各競技のアスリートがより効果的なトレーニング・強化活動を実施できるよう、トレーニング環境の整備やスポーツ医・科学、情報等によるサポート体制整備などが行われています。

NTC競技別強化拠点 図

NTC競技別強化拠点指定施設一覧 図

拠点の課題解決のための戦略を立てる「機能強化ディレクター」

NTC競技別強化拠点は、競技や地域の特性等により拠点ごとに競技力強化に関するさまざまな課題を抱えています。そこで、2019年度に、まずは5つの拠点について、各強化拠点で抱える地域連携や医・科学支援機能の構築といった機能強化を図るうえでの課題等に応じて、専門分野を持ち、多方面で活躍されているプロフェッショナルな方に「機能強化ディレクター」として就任していただきました。

機能強化ディレクターは、各NFや拠点と密接に連携し、拠点の現状と課題を分析し、HPSCとのさらなる連携強化や拠点エリアにおける資源の活用などを通じて、拠点の機能強化を図るための実効性のある具体的な戦略や施策の立案などをはじめ、競技力強化に向けて活動を行っています。

機能強化ディレクターの配置による成果

機能強化ディレクターを配置して、どのような成果があったのか、2021年2月、オンラインにて「機能強化ディレクター事業成果発表会」が行われました。発表会で挙げられた各拠点における機能強化ディレクターの具体的な取り組みや役割を紹介します。

7人制ラグビーとパラ・パワーリフティング

■トライアスロン

NTC競技別強化拠点:フェニックス・シーガイア・リゾート及び周辺エリア

課題の分析と解決策の立案・推進に関する専門性を有する機能強化ディレクターが中心となって、NF(日本トライアスロン連合)の求めるニーズを把握し、拠点が今後果たしていくべき役割や将来像を整理し、NF、拠点、自治体等の間で共通認識を図りました。
その中で見えてきた目指すべき姿を達成するために、進捗度が目に見える形で整理し、具体的に①施設の機能拡充・バリアフリー化、②医科学連携の推進、③地元コーディネーターの採用、④ジュニア発掘・育成プログラムの推進 といった観点で取り組みを進めています。

こうした取り組みを通じて、拠点に関わる関係者間での連携構築が着実に進んできており、更に取り組みを進めていく中で顕在化してきた課題解決を目指して、地元人材の登用などを進めています。

NFからも、競技普及の部分からジュニアの育成、トップのエリートの強化というところを軸としながら、セカンドキャリアという形で多くのトライアスロンやスポーツに関わる関係者が、この拠点を中心に人と事業を回していく、という理想像の共有ができたという声が聴かれました。

■パラ・パワーリフティング

NTC競技別強化拠点:京都府立心身障害者福祉センター体育館(サン・アビリティーズ城陽)

サン・アビリティーズ城陽では、持続的なNTC競技別強化拠点の運営のため、地元を巻き込んだ運営体制を確立していくことを目指して、地域連携を軸とした機能強化を行っています。機能強化ディレクターを中心に、ステークホルダー間でのコミュニケーションの強化を重要な課題として改善を図りつつ、①施設・競技環境の向上、②交通、③食事・栄養、④宿泊を重点課題として、優先順位を付けて取り組んでいます。
自治体、地元の大学や障害者スポーツ関連団体などとの連携を通じた課題解決を図っており、今後、地域との連携、地域に根ざした資金源の確保、それを通じた持続的な活動体制の確立を更に進めていくこととしています。

自治体からも、機能強化ディレクターの活動を通じて、関係団体のやるべきことが明確になり、トップアスリートを間近に見てもらうことで、障害のある子どもたちに夢や憧れを持ってもらいたい、住民の障害に対する見方を変えたい、という思いの原点に改めて戻ることができたというコメントがありました。

■スキー(ノルディック複合)

NTC競技別強化拠点:白馬ジャンプ競技場・白馬クロスカントリー競技場

ノルディック複合のNTC競技別強化拠点である白馬ジャンプ競技場・白馬クロスカントリー競技場で、機能強化ディレクターが打ち出したのは「次世代育成エリートアカデミー構想」。2026年と2030年の冬季オリンピックをターゲットに、ジュニア選手を主な対象として、トレーニングや遠征と学習を両立できるアカデミーを開講し、全段階のアスリートを一気通貫して育成できるモデルケースとなる拠点づくりを目指そうとする試みです。2020年度の試験開講を通じて新たな課題も見えてきており、試行と改善を繰り返しながら構想を前に進めています。

■7人制ラグビー

NTC競技別強化拠点:熊谷スポーツ文化公園

熊谷スポーツ文化公園における機能強化の目的は、日常的・継続的なトレーニングと一体となった地域内でのスポーツ医・科学支援体制を構築すること。そのために、機能強化ディレクターのコーディネートの下、自治体・近隣の大学・後方支援病院などとともに機能強化協議会を組織し、地域との連携・地域資源の活用を通じた課題解決を進めています。リカバリー/メディカルチェック/価値開発という強化課題を設定し、機能強化協議会を通じて地域のどこに利用可能な資源が存在するのかを明らかにしながら取り組みを進めています。

■セーリング

NTC競技別強化拠点:和歌山マリーナ「ディンギーマリーナ」

セーリングという競技の特性から課題となるのは、艇の整備や練習にかかる費用の調達。これらの課題解決に向けてマーケティング・コンテンツ制作の専門性を有する機能強化ディレクターが進めるのは、トレーニング環境充実に向けた資金調達方策スキームの企画立案です。
2020年度は、広報機能の強化を通じた認知向上と、資金を賄うためのスポンサー獲得に向けたパートナー開発スキームの検討を進めました。今後、メディアを通じたコンテンツマーケティング、企業・団体からのスポンサーシップ獲得、コロナ禍にも対応したイベントマーケティングなどを、NF、拠点、機能強化ディレクターの三位一体で更に進めていくこととしています。

発表会には機能強化ディレクターの配置を行っていないNTC競技別強化拠点や自治体の関係者も参加し、活発な質疑応答を通じて、取り組みの横展開も図られました。

最後に、スポーツ庁から、拠点横断的な振り返りと今後の方向性や課題に関する総括的なコメントがあり、今後も各拠点単独で考えるだけでなく、機能強化ディレクター間の交流を図りながら、効果的に取り組みを進めていくことの重要性が確認され、発表会が締めくくられました。

まとめ

NTC競技別強化拠点に機能強化ディレクターを配置したことで、各NFの「強化戦略プラン」に沿った、効率的・効果的な取り組みが進めやすくなっています。一方で、コロナ禍による影響も含め、それぞれに抱える課題もあるようです。機能強化ディレクターの取り組みはまだ始まったばかりですが、スポーツ庁として、その成果と課題を生かしながら、更なるアスリートのトレーニング環境の整備に努めていきます。

本記事は以下の資料を参照しています

「ハイパフォーマンススポーツ・カンファレンス2020」を取材。我が国の国際競技力強化の中核拠点HPSCのコロナ禍における取り組みとは(2021-06-01閲覧)
日本スポーツ振興センター : ハイパフォーマンススポーツセンター(2021-06-01閲覧)

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