「Athlete Career Challenge カンファレンス2023」~アスリート・指導者が知っておくべきアスリートキャリアの向上とライフキャリアの関係~

「Athlete Career Challenge カンファレンス2023」~アスリート・指導者が知っておくべきアスリートキャリアの向上とライフキャリアの関係~

アスリートが競技外のキャリアにおいてスポーツで培った能力を発揮し活躍することは、アスリート自身の人生の充実という点のみならず、アスリートが持つ価値を社会に還元するという点においても重要です。2017年2月、スポーツ庁は委託事業の一環として、スポーツキャリアサポートコンソーシアム(以下、SCSC)を創設し、産官学が一体となってアスリートのキャリア形成を支援する体制の整備を進めてきました。2023年3月4日、SCSC主催でアスリートキャリアをテーマに識者等を集めた「Athlete Career Challenge カンファレンス2023」が開催されましたので、その様子をレポートします。

Athlete Career Challenge カンファレンス2023とは

Athlete Career Challenge カンファレンス2023は、2023年3月4日に都内会場とオンラインのハイブリッド形式で開催されました。参加者は、カンファレンスの副題である「アスリート・指導者が知っておくべきアスリートキャリアの向上とライフキャリアの関係」のとおり、アスリート、指導者、競技団体、アスリート人材の採用を考えている企業などが参加しました。会場では定員上限近くの参加者が訪れ、アスリートキャリアへの関心の高さが伺えます。

カンファレンスは大きく分けて3部構成となり、「セッション1:アスリートのキャリアについて考える」「セッション2:指導者に求められるキャリア支援とは/キャリア開発の取り組み事例」「セッション3:アスリート人材への期待/ACCの取り組み」と、セッションごとに識者の方々が登壇され、それぞれの視点からキャリア支援の現状や考え方、課題等について話されました。室伏スポーツ庁長官は冒頭の挨拶で「競技力の向上だけではなく、アスリートのキャリア全体を見据えたサポートができる指導者の育成と、アスリート自らが主体的にキャリアを考え、競技を通じて培った能力を引退後の社会でも存分に発揮できるようキャリアサポートの取り組みを充実させていきたい」と語りました。

カンファレンスで挨拶する室伏スポーツ庁長官:イメージ

セッション1:アスリートのキャリアについて考える

<登壇者>
松田 丈志 氏(JOCアスリート委員会委員長)
布施 努 氏(スポーツ心理学博士/(株)Tsutomu FUSE, PhD Sport Psychology Service 代表取締役/慶応義塾大学スポーツ医学研究センター研究員)
藤田 真也 氏(特定非営利活動法人キャリアカウンセリング協会 理事長)

セッション1では、各界の識者の方々が自身の経験や活動をもとに多角的にアスリートキャリアを取り巻く現状について語りました。

競泳の元オリンピアンで、現在はJOCアスリート委員会の委員長である松田丈志さんは、中学時代にコーチから「水泳が人生のすべてじゃない、その後の人生でいかに輝けるかが勝負」と言われたことが心に染み付き、現役時代から先の人生を考えて行動していたことを語り、ロンドンオリンピック後から引退後の道筋を作っていった自身の経験談を話してくれました。

スポーツ心理学博士の布施努さんは、科学的スタッフとして現場に立ち、アスリートにライフスキルトレーニングを行っています。選手たちがキャリアスキルを学ぶなかで、思考スキルが競技と共通するものを見つけ、競技力向上にも繋がったケースを話してくれました。

キャリアカウンセリング協会の理事長としてカウンセラー育成に携わる藤田真也さんは、企業におけるキャリアカウンセリングとアスリートのカウンセリングを比較し、どちらも共通する内容が多いが、アスリートの場合、指導者と一緒にカウンセリングを受けることが必要で、指導者がキャリア相談の最初の窓口になっていただくことが大切だと指摘しました。

3者とも選手がキャリアスキルを学んだことで、結果的に競技力の向上にも結びついたことを語っていたのが印象的でした。

セッション1:アスリートのキャリアについて考える:イメージ

セッション2:指導者に求められるキャリア支援とは/キャリア開発の取り組み事例

<モデレーター>
田中 研之輔 氏(法政大学キャリアデザイン学部教授/一般社団法人プロティアン・キャリア協会 代表理事)
<登壇者>
古田 敦也 氏(スポーツコメンテーター(元プロ野球選手))
西村 卓朗 氏(株式会社フットボールクラブ水戸ホーリーホック取締役ゼネラルマネージャー)
岡崎 美穂 氏(有限会社レジックスポーツ取締役専務/1996年アトランタ五輪 体操女子日本代表選手)
小沼 健太郎 氏(一般社団法人Japan PDP理事/東京サントリーサンゴリアスPDM)
池田 敦司 氏(一般社団法人大学スポーツ協会(UNIVAS)専務理事/仙台大学教授)
渡邉 一樹 氏(スポーツ庁参事官(民間スポ―ツ担当)付スポーツ人材係長/2012年ロンドン五輪 競泳背泳ぎ日本代表選手)

セッション2では指導者に求められるキャリア支援とは何かをテーマに、前後半に分かれてトークセッションが行われました。

前半では古田敦也さんが現役時代の経験などを踏まえ野球界のエピソードを披露。選手会長時代にセカンドキャリアの勉強会を開くものの参加者は4人しかおらず、当時の選手たちのセカンドキャリアに対する意識の低さが感じられたという話やメジャーリーグの臨時コーチを務めた時に、チームにカウンセラーが4人帯同していてメンタル面のサポートが充実していたことに驚いたという話が語られました。渡邉一樹さんは自らの経験から、アスリートとして培ってきた経験や能力を、社会で働くときに上手く応用していくことが本当のキャリアトランジションではないかと語り、指導者にはトレーニングの合間にアスリートが社会との接点を持てる機会を作ってほしいとメッセージを送りました。

後半は4人の登壇者を交え、それぞれのキャリア支援の取り組みが紹介され、議論が重ねられました。 水戸ホーリーホックの西村さんは、チームの選手教育プログラムや今後の指導者養成のビジョンを紹介し、選手が人生の目的を自覚することの大切さを語りました。

現在小学生から高校生までの体操選手の指導にあたる岡崎さんは、目標達成用紙やアスリートビジョンワークショップを通じて、ジュニア選手が自らの目標を「言葉」で書くことによって目標が「見える化」し、 ビジョンの明確化と自己理解が進んだという取り組みを発表しました。

小沼さんは、プロ競輪選手時代に受けていたメンタルトレーニングを引退後に学びセカンドキャリアをスタートさせ、その後、ラグビーチームのキャリアディレクターとして活動。PDP(Player Development Program)を整備して、PDM(Player Development Manager)としてラグビートップリーグの選手に行った取り組みなどを発表しました。

UNIVAS専務理事の池田さんは、競技と学業を両立して自らの人間力を高めるデュアルキャリア形成支援プログラムや、大学における運動部の指導者を対象としたUNIVAS研修会等、UNIVASの取り組みについて解説しました。

それぞれの指導者の取り組み事例に、会場には頷きながら聴き入る参加者の姿も見受けられました。

セッション2:指導者に求められるキャリア支援とは/キャリア開発の取り組み事例:イメージ1

セッション2:指導者に求められるキャリア支援とは/キャリア開発の取り組み事例:イメージ2

セッション3:アスリート人材への期待/ACCの取り組み

<モデレーター>
田中 研之輔 氏
<MC>
本山 友理 氏(フリーアナウンサー/アスリートキャリアコーディネーター認定者)
<登壇者>
佐々木 善浩 氏(株式会社フィルアップ代表取締役CEO)
倉田 秀道氏(あいおいニッセイ同和損害保険株式会社広報部スポーツチーム統括/経営企画部 特命部長)
アスリートキャリアコーディネーター

前半は「アスリート人材への期待」として企業事例の発表が行われました。

ネットワーク設計構築などを行うIT企業の株式会社フィルアップは、自社のアスリート採用の実例を紹介。女性アスリート向けセカンド&デュアルキャリア採用制度を行うことで、社員の約10%をアスリート社員が占めており、アスリートが競技を通じて培ってきた継続力・克服力・再現力などがビジネスにも活かされていることを語りました。

あいおいニッセイ同和損害保険株式会社では、パラスポーツ支援をきっかけにアスリート雇用を始め、雇用しているアスリートの内、約2/3がパラアスリートという状況です。選手を地域で応援するという方針から、選手の活動場所に近い拠点に配属し、なかには海外リーグに挑戦したい選手を現地法人に出向させる形態でデュアルキャリアを成立させている事例もありました。また社会に向けてアスリートの活躍の場をつくることにも積極的に取り組んでいることが語られました。

後半では、スポーツ庁の委託事業の一環として養成しているアスリートのキャリア形成をサポートする人材、アスリートキャリアコーディネーター(以下、ACC)5名が登壇して、それぞれのキャリア支援活動について語りました。現在、ACC認定者は全国で約600人いて、それぞれが行動計画書を作成し、具体的な活動に向けた準備を進めています。

セッション3:アスリート人材への期待/ACCの取り組み:イメージ

まとめ

アスリートの競技外でのキャリア形成は、競技力向上にも繋がることがあり、また、アスリートの競技外での活躍は、スポーツの価値を高め、スポーツ参画人口の拡大に繋がります。このカンファレンスではアスリートを支援するキャリアコーディネーターや団体・企業が全国に存在することがわかりました。しかしながら現役アスリートにはその存在や取り組みがあまり知られていない現状もあるようです。この記事を読まれた方は、ぜひ、アスリートや指導者の皆さんに情報を伝えてください。スポーツ庁でも第3期スポーツ基本計画に基づき、引き続きアスリートのキャリア形成を支援していきます。

【参考記事】

●本記事は以下の資料を参照しています

スポーツキャリアサポートコンソーシアム ホームページ(2023-03-01閲覧)
スポーツキャリアサポートコンソーシアム(SCSC)キャリアセンター(2023-03-01閲覧)
スポーツ庁YouTubeチャンネル - Athlete Career Challenge カンファレンス2023(2023-03-01閲覧)

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