地域におけるスポーツ医・科学支援の在り方に関する検討会議提言を解説
スポーツ医・科学分野の研究・支援を推進し、科学的根拠に基づく選手強化活動の充実を図ることは、我が国の国際競技力の向上に不可欠であるとともに、アスリートが健康を維持しながら安全に競技を実施するためにも極めて重要です。
「第3期スポーツ基本計画(令和4年3月25日)」及び「持続可能な国際競技力向上プラン(令和3年12月27日)」において、国は、居住地域にかかわらず、全国のアスリートがスポーツ医・科学によるサポートを受けられる環境の整備に取り組むことを掲げています。
これを実現するためには、都道府県を始めとした地方公共団体が設置するスポーツ医・科学センターや関係機関の連携による地域レベルでのアスリート等に対するスポーツ医・科学支援を実施する体制を構築することが重要です。
このため、スポーツ庁では、2022年5月に「地域におけるスポーツ医・科学支援の在り方に関する検討会議」を設置し、今後の施策推進に向けた課題等について議論を行ってきました。昨年11月に本検討会議の提言が公表されましたので、今回デポルターレではその提言を解説します。
各都道府県におけるスポーツ医・科学支援の取り組み状況
我が国では、スポーツ医・科学研究、支援を行うための中核拠点として、2001年に国立スポーツ科学センター(以下「JISS」という。)が設立されました。
JISSではトップアスリートに対して、以下の8分野のスポーツ医・科学支援が実施されています。
図:JISSにおけるスポーツ医・科学支援の構造※個人又はチームを対象に、心理、栄養、トレーニング、映像・ITの各分野でのサポート(競技力向上に関する相談、実技指導、講習会の実施)を「分野別サポート」として実施
※対象競技を絞り、HPSCの人的・物的資源を重点化し、競技力向上のための組織的、総合的(上記に加え動作分析、レース・ゲーム分析を含む。)、継続的なサポートを「総合型サポート」として実施。
現在、全都道府県の9割にあたる41都道府県が何らかの取り組みを行っていますが、上記のJISSで行われている8分野すべての項目を実施している都道府県はわずかです。地域ごとに取組内容や実施体制はさまざまで、国民体育大会(以下「国体」という。)を開催した都道府県の実施体制が、開催後に縮小される事例も見られます。地域間の支援内容に差が生じているのが現状です。
ハイパフォーマンススポーツセンター(以下「HPSC」という。)では、HPSCで培ったスポーツ医・科学支援のノウハウを「HPSCパッケージ」として、地域のスポーツ医・科学センター等に展開していますが、地域によってはこれを地域において展開する体制がないことも課題です。
こうした状況を踏まえ、地域におけるスポーツ医・科学支援機能の向上を図るため、「地域におけるスポーツ医・科学支援の在り方に関する検討会議」において議論が行われてきました。
図:各都道府県におけるスポーツ医・科学支援の取組状況
検討会議により示された今後の方向性
本提言で示された今後の方向性について紹介します。
アセスメントに基づくサポートを提供し継続的に観察・評価するという一連の流れでスポーツ医・科学支援を実施することが重要
スポーツ医・科学支援の実施に当たっては、アスリートの心身の状態を客観的に把握するためのアセスメントを行い、その結果に基づいて、アスリートがどのようなトレーニングを行うべきか、どのような栄養を取るべきかなどを明らかにした上で適切なサポートを提供しながら、継続的に効果を観察・評価するという一連の流れで取り組むことが重要です。
図:スポーツ医・科学支援の流れのイメージ
支援の質の向上と対象の拡大を両輪で進める
地域のスポーツ医・科学センターにおいては、①フィジカル・フィットネスチェック、②メディカルチェック、③栄養サポート、④心理サポートの4つの機能を有することが求められます。
その上で、競技レベルに応じて他の支援機能も併せて有することが望まれます。
また、オンライン形式なども活用し、支援対象の範囲を、従来の国体強化指定選手から都道府県大会出場レベルや学校運動部の選手層まで拡大させることも望まれます。
こうした支援の質の向上と対象の拡大を両輪で進めるためには、各地域の実情に応じ、地域の資源を有効に活用した実施体制を構築することが不可欠です。
図:地域におけるスポーツ医・科学支援の対象や範囲の考え方
各地域に共通ビジョンを持って連携を促すアドミニストレーターを
地域におけるスポーツ医・科学支援の実施体制の構築に当たっては、スポーツ医・科学センターを始め関係機関の間でスポーツ医・科学支援に係る質や対象範囲について認識(ビジョン)が共有されることが重要となります。ビジョンを共有した連携体制を構築するためには、関係機関間の連携を主導する中核人材(アドミニストレーター)を中心に関係機関からなる共同事業体(コンソーシアム)を形成することが重要です。アドミニストレーターには関係先をまとめるマネジメント力や一定以上のスポーツ医・科学の知見などが必要で、このような資質・能力を擁した個人、または複数人の体制を各地域に配置することが重要です。
図:スポーツ医・科学センターを中心としたコンソーシアム
まとめ
スポーツ庁では、本提言を踏まえ、令和5年度予算(案)において、「地域におけるスポーツ医・科学サポート体制構築事業」として、各地域において、スポーツ医・科学コンソーシアムを形成し、関係機関との連携を強化することにより、スポーツ医・科学サポートの質の向上とサポート対象の拡大等を図る取組を支援するための経費を計上しています。2月中を目途に、スポーツ庁WEBサイトにおいて、本事業の公募要領を公表する予定ですので、御関心のある方はぜひ御確認ください。
【追記(2024年10月)】
本事業の公募については、令和5年3月をもって終了しております。
図:地域におけるスポーツ医・科学サポート体制構築事業
スポーツ庁では、全国のアスリートが、スポーツ外傷・障害・疾病を予防し、健康を維持しながら安全に競技を継続できる環境の整備に向け、本提言の内容も踏まえ、引き続き、HPSCや地域のスポーツ医・科学センター等の関係機関と連携し、スポーツ医・科学等の知見を活用した国際競技力向上に取り組んでまいります。
●本記事は以下の資料を参照しています
地域におけるスポーツ医・科学支援の在り方に関する検討会議(2023-01-01閲覧)
スポーツ施策の新たな方向性を示す「第3期スポーツ基本計画」を解説!《前編》(2023-01-01閲覧)
スポーツ施策の新たな方向性を示す「第3期スポーツ基本計画」を解説!《後編》(2023-01-01閲覧)
次代へ向けた「持続可能な国際競技力向上プラン」を発表(2023-01-01閲覧)