コロナ禍から反転攻勢に向けた「武道ツーリズム」

コロナ禍から反転攻勢に向けた「武道ツーリズム」

スポーツ庁ではスポーツの参加や観戦を目的として地域を訪れたり、地域資源とスポーツを融合した観光を楽しむ「スポーツツーリズム」を通じて、幅広い関連産業の活性化、交流人口拡大による地域・経済の活性化を推進しています。現在、新型コロナウイルス感染症の影響により、各地域においても訪日外国人旅行客需要が停滞している状況が続いています。こうした中で、コロナ終息後にまた多くの世界各国の方々が日本を訪れたくなるよう、魅力ある観光コンテンツの造成を現在も各地で進められています。

昨年度のデポルターレでは、日本発祥の武道を活かした「武道ツーリズム」を紹介しました(https://sports.go.jp/tag/country/post-32.html)。今回はそれに関連して、スポーツ庁が本年度実施してきた「地域スポーツ資源を活用したインバウンド拡大のためのモデル事業」から、九州全域の「SAMURAIツーリズム」と、沖縄での「空手ツーリズム」の取り組みを紹介します。

武士道文化と日本の伝統文化の融合「SAMURAIツーリズム」

武士道文化が根付く九州において新たに企画されたのが「SAMURAIツーリズム」。古来より盛んに行われている武道のひとつが剣道(剣術)で、九州は優秀な競技者、指導者を輩出する全国有数の地域として知られます。その九州において、剣道と脈々と受け継がれる武家文化に触れることで、より深く、日本の良さを感じてもらいたい思いから企画されました。

「SAMURAIツーリズム」は2つの柱で構成されています。

●剣道クリニック
レッスンによる海外剣士の技術向上と世界への情報発信を目的とした有段者向け集中プログラム。
●体験モニターツアー
九州各地に点在する「小京都」と呼ばれる城下町を舞台に、その地域に受け継がれる侍文化を体験できるプログラム。

一般的に敷居が高いと思われがちな武道を初めての方にも受け入れやすくし、「剣道」を基本にしつつも、「道」と名のつく、茶道、華道、書道なども結びつけた武家文化として広く捉えています。

九州6カ所で体験モニターツアーを開催

「SAMURAIツーリズム」では、九州6カ所で体験モニターツアーが予定されています。福岡県朝倉市秋月をはじめ、宮崎県日南市飫肥城下町、鹿児島県南さつま市加世田郷、熊本県大津町、長崎県島原市、長崎県平戸市平戸城の6カ所。剣道を中心とした古来より地域に根付く武道体験、武家屋敷や伝統的建築古民家、そして改修した城へ宿泊する「キャッスルステイ」など、非日常空間を体験できるのが特徴です。

“筑前の小京都”秋月モニターツアー

今回、秋月で行われた体験モニターツアーの一部を紹介します。福岡県朝倉市に位置する秋月城跡を中心に武家屋敷が現存する“筑前の小京都”と称される「秋月」。伝統的建築物などの美しい景観のみならず、「光月流太鼓」をはじめ、武家文化が現代に受け継がれています。モニターツアーでは、日本在住のアメリカ人男性とオーストラリア人女性2人が参加し、秋月の伝統文化に触れることを目的に、武家屋敷(旧田代家)に宿泊。秋月の名にふさわしい中秋の名月を楽しみながら、茶道・華道・弓道・鼓道を体験しました。

老舗旅館「清流庵」で着物に着替え、武家屋敷(旧田代家)にて華道体験を行う参加者

武家が嗜んだ「光月流太鼓」では、鑑賞のあと、地元保存会メンバーから手ほどきを受けながら実演体験

懐石料理店「潤水」に設けられた道場で初めての弓道体験に真剣に取り組む参加者

秋月甲冑見回り隊の指導のもと甲冑体験。戦国武将の雰囲気を味わいながら甲冑姿で記念撮影

本物の体験を通じて「侍文化」「武道」を知る

今回の取り組みについて、SAMURAIツーリズムを実施した日本航空株式会社・大槻さんに話を伺いました。

SAMURAIツーリズムのきっかけ

九州ではインバウンドの96%が、中国や韓国といったアジア圏の人たちで、欧米豪は4%。欧米豪では「侍文化」への関心と興味が高く、日本の伝統文化を押し出すことで欧米豪のシェアを増やせると思いました。

元々、私も剣道をやっていて、この取り組みの前から世界に向けて剣道の技術向上および普及のためのクリニックを開催していた実績がありました。今回、スポーツ庁の武道ツーリズムとして、「剣道」を日本の伝統文化(侍文化)である茶道・華道・弓道・鼓道などの「道」のひとつとして位置づけ、剣道経験者以外の人にも広くアピールできるコンテンツ「SAMURAIツーリズム」を目指しました。

コンテンツづくりの経緯について

コンテンツをどのようなカテゴリーで括っていくか考えた時、九州には武家文化が色濃く根付く「小京都」と呼ばれる地域がいくつかあったので、秋月、飫肥など「エリア」で区切ることにしました。しかも各エリアには「城」や「武家屋敷」があり、城に宿泊する「キャッスルステイ」、武家屋敷に宿泊する「サムライステイ」を実現。欧州では古城ホテルもあり、欧米豪の方には「キャッスルステイ」はイメージしやすいのではないでしょうか。これまで武家屋敷は文化財として扱われてきましたが、サムライステイのような新たな利用方法もあることを自治体の方に示せたのではないでしょうか。

モニターツアーを実施してみた反応

秋月のツアーで宿泊していただいたのは旧田代家の武家屋敷です。部屋には照明もエアコンもない環境ですが、武家時代の日本人がどのような生活をしていたのか貴重な体験ができたという感想をいただいています。また、地域で代々と受け継がれてきた光月流太鼓も、これまでは観光としてはやっておらず、今回特別に演奏体験できたことに参加者は喜んでいました。こうした本物の体験が外国の方に強くアピールできることだと思います。

これから武道ツーリズムに取り組もうとしている皆さまへ

今後、武道ツーリズムに取り組むうえで競技連盟との連携が必要不可欠だと思います。世界に「剣道」を発信していきたいと思う気持ちが最優先であり、ビジネス優先の考え方では協力してもらえません。今回、私も剣士の端くれとして「剣道」のことを大事に思いながら「SAMURAIツーリズム」に取り組んできました。

空手発祥の地・沖縄における武道と地域振興を目指す「空手ツーリズム」

空手ツーリズム イメージ

沖縄を発祥の地とする「空手」は、心身を鍛えるとともに、礼節を重んじる武道として、国内外に広く普及。東京2020オリンピックの正式種目として採用されるなど、いまや「KARATE」は世界に通じる共通語となっています。

2016年に沖縄県は沖縄空手の振興を目的として空手振興課を設置し、「沖縄空手会館」のオープンや「武道ツーリズムシンポジウム」の開催を開始。2019年度の観光庁および内閣府沖縄事務局の事業を経て、2020年度、スポーツ庁「地域スポーツ資源を活用したインバウンド拡大のためのモデル事業」として44の空手ツーリズムコンテンツが造成されました。

初心者から熟練空手家向けまで幅広く体験ツアーを用意

「空手ツーリズム」は、美しいビーチと独特の文化と歴史で有名な沖縄で「空手」を体験しながら観光を楽しむことができるのが特徴です。体験内容も道場稽古、空手観光、他武道体験、文化体験など、初心者向けから熟練した空手家向けまで幅広く用意されています。

いくつか体験コースを紹介してみましょう。

●沖縄空手主要4流派体験コース
沖縄空手の主要4流派(小林流・剛柔流・上地流・古武道)をそれぞれ体験。すべての稽古とも各流派の高段者から指導していただけます。
●沖縄空手聖地巡礼ツアー
沖縄には400以上の空手道場やさまざまな空手の聖地、そして世界中から尊敬されている多くの高段空手家がいます。流派に合わせて空手にゆかりのある場所や個人では行くことが困難な聖地などを訪問します。
●琉球瓦割り体験
空手家が己の技や力を見せる手段のひとつ「瓦割り」。空手未経験者でも、開運、願掛け、ストレス解消、家族の思い出づくりなど、それぞれの目的で瓦割り体験が行えます。

空手の稽古にいそしむ海外在住の修行者 イメージ

守破離のニーズに合ったコンテンツと、オンラインも活用

今回の取り組みについて、空手ツーリズム実施団体の一般財団法人 沖縄観光コンベンションビューローの田口さんに話を伺いました。

空手ツーリズムの流れについて

2019年の観光庁および内閣府沖縄事務局「訪日グローバルキャンペーン」に引き続き、2020年、スポーツ庁「地域スポーツ資源を活用したインバウンド拡大のためのモデル事業」をJTB沖縄とAgeshio Japanの3社連携受託しました。現在、数百年間沖縄で培われてきた空手と、沖縄の美しい海、琉球の歴史や文化を組み合わせたコンテンツを「Enjoy Karate Tourism in Okinawa!」(https://karate.ocvb.or.jp/jp/)に掲載。未掲載を含めると44ものコンテンツを開発してきました。コンテンツの造成には、政府や観光業界、空手関係の有識者による「協議会」を設け、承認を行うシステムになっています。

コンテンツづくりで気をつけていること

前年度から、各コンテンツに「守」「破」「離」というマークをつけました。この「守破離(※)」というのは千利休の考えで、「守」は初級者・観光客、「破」は中級者、「離」は上級者・空手指導者を指します。元々、武道や空手でも使わる言葉です。この「守」「破」「離」それぞれのニーズに合わせたコンテンツづくりを行っています。スポーツ庁が掲げる「Sport in Life」のように、「守」であるライト層が気軽に参加できるものも増やしました。そのなかで、今年はコロナの影響で、思うようにモニターツアーを行えませんでしたが、県在住の外国の方に空手とエアロビクスを掛け合わせた「空手ビクササイズ」が好評でした。

※守破離(しゅはり)=千利休の「規矩作法 守り尽くして破るとも離るるとても本を忘るな」からの引用で、「守」はまずは師匠の教えを守る、「破」は力をつけたら既存の型を破る、「離」は型から離れ自由になるという意であり、日本の茶道や武道などにおける師弟関係のあり方の一つとされる。

コロナ禍で起きた変化

これまで沖縄には海外の空手家たちが流派のルーツを求めて訪れていたのですが、コロナ禍で訪日できないため、各道場をオンラインで繋げた空手セミナーや稽古も開始しました。多いところは100人近くが参加したそうで、これがかなりの人気です。オンラインの場合、海外の空手家たちは、沖縄にいる指導者の生の声を聴きたいというニーズがあり、通訳がいらないこともありました。今後、指導者を一方向だけではなく、別方向からも映した方がいいなど、見せ方の面での工夫をしていこうと思います。

本事業に取り組んでみて

スポーツ庁「地域スポーツ資源を活用したインバウンド拡大のためのモデル事業」、前年の観光庁および内閣府沖縄事務局「訪日グローバルキャンペーン」ともに単年度事業契約です。まだ「空手ツーリズム」は始めたばかりですから、まだ知らない人も多いですし、改善していく点もあります。空手ツーリズムを普及させていくには1年では足りないというのが本音です。効率を考えても複数年あるといいと思いました。

まとめ

日本発祥の「武道」は外国人から高い関心を集めています。コロナ禍の影響で訪日外国人の数が減っている現状ですが、コロナウイルスが終息した際には、ふたたび「武道」「日本の伝統文化」の価値が再評価されることでしょう。いまも全国各地で「武道ツーリズム」の魅力をさらに高め、多くの外国人の方々をお迎えする準備をすすめています。

本記事は以下の資料を参照しています

スポーツ庁 - SAMURAI TOURISM|侍ツーリズムとは(2021-03-01閲覧)
Enjoy Karate Tourism in Okinawa!(2021-03-01閲覧)
沖縄県 - 「沖縄空手振興ビジョンロードマップ」について(2021-03-01閲覧)

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