ウクライナのパラトライアスリートに日本での合宿の機会を!~スポーツを通じた国際貢献「Sport for Tomorrow」が目指す未来~

ウクライナのパラトライアスリートに日本での合宿の機会を!~スポーツを通じた国際貢献「Sport for Tomorrow」が目指す未来~

2024年5月11日、ワールドトライアスロンパラシリーズ(2024/横浜)に、ウクライナのビタ・オレクシウク選手が出場しました。この大会に先立ち、2024年2月、公益社団法人日本トライアスロン連合(JTU)は、「スポーツ・フォー・トゥモロー(SFT)」の枠組みで実施しているスポーツ庁の国際情勢に応じた海外アスリート等支援事業を活用し、ウクライナのパラアスリートを沖縄県本部町での合宿に招待しました。紛争等国内の情勢により、自国で充分な練習環境が得られないアスリートを支援する事業です。いまだ戦火にあるウクライナからパラトライアスロンの選手ら4名が来日。日本代表との合同練習のほか、地元の小学校訪問などの国際交流も行われました。その様子をご紹介します。

ウクライナのパラアスリート、日本代表の沖縄合宿に参加

合宿に参加したアリサ・コルパクチー選手(左から4人目)とビタ・オレクシウク選手(同5人目):イメージ※合宿に参加したアリサ・コルパクチー選手(左から4人目)とビタ・オレクシウク選手(同5人目)

2024年2月、沖縄県本部町で、日本のパラトライアスロンナショナルチームとウクライナパラトライアスロンチームの合同合宿が行われました。合宿に参加したのは、肢体不自由の立位のクラスに出場するアリサ・コルパクチー選手と視覚障害のあるビタ・オレクシウク選手。2人は、「本国にいれば家族がいますが、練習ができません。本国を離れれば練習はできますが、家族と離れていることが心理的ストレスになっています」と実情を話した一方で、ちょうど翌日に自身の誕生日を控えていたビタ・オレクシウク選手は、「日本での練習機会が得られたことは、まるで誕生日プレゼントのよう」と、かみしめるように語りました。

また、練習に参加した宇田秀生選手は「会う前はどのように接すればよいのだろうと思っていましたが、普通に話し、普通に練習し、必要以上に気を遣うことはありませんでした。ただ、遠い異国の地で懸命に練習をしているウクライナ選手からは刺激をもらっています」、米岡聡選手は、「ウクライナの状況はニュースなどで知っていましたが、こうして一緒に練習し、自分たちがいかに恵まれている環境であったかに気付くことができました」と話し、競技への想いを新たにしていました。

同じアスリートとして、これから国際大会で顔を合わせる機会もあるといい、ワールドトライアスロンパラシリーズ(2024/横浜)、そして、パリ2024パラリンピック大会での再会を目指して、お互いに全力を尽くすことを誓いました。

地元の人とも積極交流。本部小学校の児童との間に生まれた「絆」

練習会場では、陸上トラックで選手がラントレーニングをしている一方で、内側の芝生ゾーンでは、地元の方がゲートゴルフをしている場面もありました。すると、練習後、どちらからともなく話しかけ、ウクライナ選手も急遽一緒にゲートゴルフに飛び入り参加することに。笑顔でプレーするなど、積極的に交流を楽しんでいました。

地元の人とも積極交流。本部小学校の児童との間に生まれた「絆」:イメージ

3月1日には沖縄県本部町の本部小学校を訪問。児童たちはウクライナ語で書いたメッセージボードなどで出迎えてくれました。約170人の5、6年生に、競技の特徴やウクライナでの練習の状況を、スライドを使って説明したほか、児童からの質問にも丁寧に答えていました。「好きな食べ物は」「好きな教科は」といった身近な質問から、「トライアスロンを始めたきっかけは」など競技経験に至るまで、さまざまな質問がありましたが、中でも、「3種目(スイム、バイク、ラン)の中で一番好きな種目はなんですか」という質問に、選手からの「スイムは好きだけど、試合の時に競い合うスイムは嫌い」と茶目っ気いっぱいの返事に、会場では笑いがおこりました。一方で、「憧れている人はいますか」という質問に対し、「今、日々を生きることに精一杯で、憧れやこの先の未来については正直考えられない。今は、自国のために戦ってくれているウクライナ軍の兵士に感謝しています」との言葉に、その瞬間、会場にいた全員がウクライナに想いを寄せたように感じられました。

当初、交流会は1時間程度の予定でしたが、質問が途切れることはなく、その後、子どもたちがノートやサイン帳を持ってきて、選手を囲む列ができ、即席サイン会となりました。ウクライナの両選手は障がいで不自由ながらも、一人ひとり、丁寧に対応してくれました。予定の時刻は過ぎていましたが、子どもたちから「もっとお話を聞きたい」「給食を一緒に食べたい」という要望があり、急遽、一緒に昼食を囲むことに。子どもたちにとっても、今現在、戦時下にあるウクライナの現実を知り、平和について考える機会となりました。

ミサイルの破片でつくったキーホルダー。平和への想いを胸に

ミサイルの破片でつくったキーホルダー。平和への想いを胸に:イメージ

合宿時、ウクライナ選手から、日本選手へ、大きさや形の異なる銀色のキーホルダーが渡されました。これは、「ロシアから飛んできたミサイルの破片」でつくられており、そこには、「UNITED FOR PEACE」の文字が刻まれていました。

パリ2024大会出場を目指し、世界ランキングを上げることを目標に、5月のワールドトライアスロンパラシリーズ(2024/横浜)に出場したビタ・オレクシウク選手は、「日本に戻ってこられて嬉しい。スイム・バイク・ランのすべてが私の強みであり、すべてをうまくなりたい。2月の合宿で、強い日本チームと一緒に充実した練習ができ、私のレベルも上がったと思います」と話し、合宿で一緒だった日本人選手とは、ジョークを言い合うなどして再会を喜び合ったと教えてくれました。レース後は、「ランが特に苦しかった」と、満足のいくパフォーマンスが出せなかったことに悔しそうな表情を見せていた一方で、「沿道から、ウクライナ語での声援も聞こえました。また必ず日本に戻ってきたい」と笑顔も見られました。

国際トライアスロンの統括団体ワールドトライアスロン副会長で、JTU専務理事の大塚眞一郎氏は、「アジアの国である日本がウクライナ選手の受け入れ支援することは、東京大会招致から掲げてきたスポーツ・フォー・トゥモローの理念に基づいたもので、スポーツを通じた活動の価値を高めるもの。国際競技連盟にこの取組を紹介したが、日本政府のこのような形でのウクライナ選手の支援は素晴らしいものだと称賛されました。しっかり世界に発信もしていきたい」と話しました。

まとめ

スポーツ庁では、紛争や災害など、やむを得ない事情により自国で練習ができないアスリートが、大会に出場するために日本で練習すること等に対し、スポーツ・フォー・トゥモロー事業の枠組みの中で支援を行っています。国際貢献の観点からの支援という側面ももちろん、日本の受け入れ団体をはじめとした選手や地域との国際交流の観点でも、大変意義のある事業と考えています。今回、合宿に参加したビタ・オレクシウク選手が「この状況を打破して、平和な世界をつくっていくことが大きな願い」と語ったように、世界中のアスリートが、紛争や災害等の障害に阻害されることなくスポーツに取り組める日が来ることを願い、スポーツを通じた国際貢献・国際交流を推進してまいります。

関連記事
Sport for Tomorrowを通じてASEAN Para Gamesに審判団を派遣!
スポーツに国境はない! スポーツを通じた国際貢献「スポーツ・フォー・トゥモロー」でつなげる世界の輪
スポーツを通じて世界とつながるポストSFT

●本記事は以下の資料を参照しています

スポーツ庁 - スポーツを通じた国際貢献(2024-05-01閲覧)
スポーツ・フォー・トゥモロー(2024-05-01閲覧)

:前へ

Sport in Life 〜コンディショニングに関する研究成果報告会(第2回)を開催〜

次へ:

秋田の名産“米”愛による、スポーツと地域の共創ビジネス〜地域版SOIPデモデイ2023〜