J-STARプロジェクトに新たな動き、アスリート履歴書ツール「アスリートパスウェイシステム」始動

J-STARプロジェクトに新たな動き、アスリート履歴書ツール「アスリートパスウェイシステム」始動

未来のトップアスリートを発掘する「J-STARプロジェクト(正式名称:ジャパン・ライジング・スター・プロジェクト)」は、2023年9月1日より本格運用となった「アスリートパスウェイシステム」を活用した新たなタレント発掘を開始しました。デポルターレでは、新しいシステムがアスリートにとってどのようなメリットがあるのかなど取材してみました。

J-STARプロジェクトとは何か

まず「J-STARプロジェクト」とは、2017年度より、スポーツ庁、日本スポーツ協会(JSPO)、日本スポーツ振興センター(以下、JSC)、日本オリンピック委員会(JOC)、日本パラスポーツ協会日本パラリンピック委員会(JPSA/JPC)が中央競技団体と連携して、全国から将来性豊かなアスリートを発掘するために発足したプロジェクトです。

優れた身体能力や資質を備えていたり、将来オリンピック・パラリンピックを目指していたり、夢を追いかける全国の若者や障害者たちに呼びかけ、各地での測定会やデータ選考で有望者を発掘し、それぞれの特性や能力を活かせる競技種目とのマッチングを支援してきました。このプロジェクトを通して他競技から転向して新たな活躍の場を見つけたアスリートも数多くいます。

これまでに発掘されたアスリートでは、パラリンピック競技では、2022年12月に行われた「ボッチャ世界選手権」に内田峻介選手が初出場し優勝。「東京2020パラリンピック競技大会」には、車いすフェンシングの阿部知里選手、松本美恵子選手、ボッチャの木村朱里選手、カヌーの小松沙季選手が出場。2023年7月にパリで開催された「パリ2023世界パラ陸上競技選手権大会」でも、走り幅跳びの石山大輝選手、女子100m・800mT34の小野寺萌恵選手、男子100mT47の三本木優也選手3名が活躍しました。
オリンピック競技では、自転車競技の垣田真穂選手が「2023年UCI自転車世界選手権大会」のトラック(チームパシュート、エリミネーション)に出場しています。

J-STARプロジェクトのことをもっと詳しくお知りになりたい方はデポルターレの過去の記事もご覧ください(ページ下にURLがあります)。

9月より「アスリートパスウェイシステム」の活用がスタート

今年7年目を迎えるJ-STARプロジェクトでは、オリンピック競技を対象に今年9月より本格稼働となったアスリートパスウェイシステム(以下、APS)の「スカウト機能」を活用した新たなタレント発掘を開始しました。

APSはまだスポーツをしていない人からアスリートとして活動している人まで、年齢・性別・競技歴を問わずどなたでも無料で利用可能なシステムで、自身がプロフィールや新体力テスト等の測定値、大会の結果、競技歴等の競技記録をパソコンやスマートフォンなどの情報端末を使って登録ができ、しかも体力測定や競技記録などの情報を常に最新のものに更新することができます。いままで体力測定データは、学校や自治体、競技団体などの各機関がバラバラに有しており、過去の情報を確認しようにも、保護者の方や自分自身がデータを管理していない限り難しい状況でした。 APSを活用し、様々なデータや記録を一元的に登録しておくことで、自身でも成長の経過を追うことができ、アスリート履歴書として活用することが可能です。

J-STARプロジェクト(オリンピック競技)では、未来のトップアスリートを発掘したい中央競技団体(以下、NF)がAPSに登録された情報を閲覧し、競技適性にマッチしそうな有望者を発掘します。

実施フロー:イメージ

アスリート履歴書、成長記録ツールとして利用できる

APSに登録できる内容は、氏名や生年月日などの基本的な個人情報に加え、文部科学省で実施している新体力テスト等の測定値、競技記録(大会結果、これまでの競技履歴など)、身体測定値(身長、体重など)など多岐に渡ります。テキスト以外にも競技中の自身を撮影した動画や自己PR動画を登録することも可能です。

登録した新体力テストの測定値は、測定項目、性別・年齢など、それぞれの分類の基準値と登録アスリートの登録情報を即時比較し、グラフ化されるため、自分自身を客観的に分析し、強みや弱みの発見にも繋げることが可能となります。

中央競技団体からも注目される新たなAPS

APSに登録された情報は中央競技団体(NF)も閲覧することが可能で、登録された成長記録や自己PR動画から競技に適性がありそうなアスリートをスカウトできます。選手の情報は個人情報を含みますので、NF側からは匿名化された状態での閲覧となりますが、測定値や記録などの情報を元に公正に評価されることはアスリートにとってメリットの一つです。NFごとに評価基準は異なりますので、本人が気づかなかった能力が発見されたり、新たな競技に出会えたり、アスリートとしての可能性が広がります。APSによってNFは将来有望なアスリートを発掘できるチャンスが増えるわけです(スカウト希望の有無はアスリートが任意で選択可能)。

●J-STARプロジェクト/オリンピック競技 APS利用競技

夏季競技 ウエイトリフティング、柔道、スケートボード、スポーツクライミング、トライアスロン、ハンドボール、フェンシング、ホッケー、ライフル、ラグビー(7人制)、ローイング
冬季競技 スキークロス、スノーボードハーフパイプ、フリースタイルスキーエアリアル、カーリング、スケルトン、ボブスレー、リュージュ

※今後、競技が追加となった場合は、Webサイト(https://pathway.jpnsport.go.jp/j-star/olympics/)にてお知らせされます。

アスリートが活躍できる場所を広げるツール

今回、取材させていただいたJSCハイパフォーマンススポーツセンターハイパフォーマンス戦略部開発課の主任専門職である松井陽子さんに新たにAPSが導入された背景などについてお話を伺いました。

松井陽子さん:イメージ独立行政法人日本スポーツ振興センター ハイパフォーマンススポーツセンター 主任専門職 松井陽子さん

−アスリートの情報を蓄積する意義は何ですか。

松井
情報を蓄積する意義はいくつかありますが、トップアスリートに限らずだれでも幼少期からのデータを蓄積できることで、成長過程や選手の特長が可視化されていきます。トップアスリートのデータはJSCの国立スポーツ科学センターに蓄積されていますが、小中高時代どんな競技を経験しどんな成績だったのか どんな体格だったのかは本人から聞き取りをしなければわかりません。例えば、トップアスリートが小6の時には立ち幅跳びで何センチくらい飛べていたのか、50m走が何秒だったかが分かったら、それが1つの目安になるのではないでしょうか。たくさんのアスリートのデータが蓄積されることで今後の発掘や育成などの研究資料にもなりうることが期待されています。

−アスリートの皆さんにはAPSをどのように利用してもらいたいですか。

松井
アスリートが活躍できる場所を広げるツールとして使っていただきたいですね。大会記録や競技履歴など新たな情報を更新しておけば、スカウトで閲覧するNFにも目が止まりやすくなるので、大学生が就職活動に自己PRで使うエントリーシートのように利用することもできます。他者の目には自分では気づかない自分の可能性が見えているかもしれません。もちろんスカウトとは関係なく、自分の成長記録のアーカイブとして使っても結構です。自分の可能性が見えてくることで、スポーツをやってきてよかった、楽しかったと思う人が増えたらいいなと思っています。

J-STARプロジェクトは世界を目指すルート

J-STARプロジェクトは、アスリートにとって世界を目指すルートとして確立されつつあります。興味を持たれた方はAPSに登録をしてみてはいかがでしょうか。今年度はAPSを活用したJ-STARプロジェクトによるスカウトの実施はオリンピック競技に限られますが、パラリンピック競技の方もAPSの利用は可能です。また、パラリンピック競技のJ-STARプロジェクトではこれまで通り「基礎測定会」が開催されています。すでに開催されてしまったブロックもありますが、下記会場においては記事掲載時でも参加募集をしています。

近畿ブロック・京都/11月12日(日) 応募締切10月12日(木)
中部東海ブロック・静岡/11月18日(土) 応募締切10月18日(水)
北信越ブロック・長野/12月2日(土) 応募締切11月2日(木)
九州ブロック・鹿児島/12月24日(日) 応募締切11月24日(金)

詳しくは公式サイトまで
J-STARプロジェクトについて
オリンピック競技(https://pathway.jpnsport.go.jp/j-star/olympics/
パラリンピック競技(https://pathway.jpnsport.go.jp/j-star/paralympics/
APSについて(https://pathway.jpnsport.go.jp/aps/index.html

まとめ

オリンピック・パラリンピック競技大会に向けて有望なアスリートを発掘し、競技団体の強化育成コースに導く「J-STARプロジェクト」の取り組みは、スポーツ庁が「第3期スポーツ基本計画」で掲げる持続可能な国際競技力向上施策とも一致し、新たなAPSによってアスリートが成長、躍進していく可能性が広がることに期待しています。

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●本記事は以下の資料を参照しています

J-STARプロジェクト公式サイト(2023-08-01閲覧)

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